住宅診断(ホームインスペクション)でのチェックポイントを写真とともに詳しく解説するシリーズの第2弾は、住宅の床や壁の傾きについてです。
住宅を購入するときに、建物について心配することの1つに建物の傾きや歪みの問題があります。「傾いている建物なんて怖くて住めない」「傾きがあるとは欠陥住宅だ」などと理解されている方も多いのではないでしょうか。住宅診断(ホームインスペクション)でも、傾きの調査は必須項目とされています。
住宅に傾きがあれば、それが重大な問題である可能性があります。しかし、注意してほしいのは、重大な問題である「可能性がある」ということです。つまり、「建物の傾き=欠陥住宅」だと決めつけてしまうことはよくありません。傾きとは症状です。その症状がなぜ生じているのか、その原因次第では実は大した問題ではないこともあるのです。
建物の傾き言いましても、多くの場合はまず床が傾いていることに気づきます。傾きについて相談されるときは、いつも「床が傾いていると思って・・・」から始まりますが、床が傾く原因としてはいくつか考えられます。主なケースとして以下のことが挙げられます。
- 床の下地材・根太の劣化や束の浮き
- 新築時の施工精度・品質が低い
- 建物の構造的な問題
- 地盤沈下
上記について、少し解説します。
(1)床の下地材・根太の劣化や束の浮き
床が傾く原因の1つとして、その床の下地材や根太などに問題があることがあります。
たとえば、築年数がそれなりに経過している中古住宅の場合であれば、下地材や根太が劣化して部分的に凹んでいることがあります。このケースならば、建物の構造に対して心配する必要はありません。
また、束が浮いてしまい(以下の写真)、それにより床の一部が床鳴りしたり傾いたりすることもあります。
(2)新築時の施工精度・品質が低い
次に考えられる傾きの原因としては、新築した際の施工精度(施工品質)の問題です。
新築する際は当然のことながら、水平・垂直の精度を高めることを考慮して施工するのですが、その精度が高くないことがあります。つまり、新築した時点で傾いているというケースです。このケースでも、建物が徐々に傾てきたわけではないので、構造的に大きく心配されるわけではありません。
壁や基礎などにひび割れが無く、クロスの継ぎ目の大きな割れも無いときには、この「(1)床の下地材・根太の劣化や束の浮き」や「(2)新築時の施工精度・品質が低い」といった原因の可能性があります。
(3)建物の構造的な問題
そして、心配される原因としては「構造的な問題」です。
構造的な問題としても、柱や梁、土台などの主な構造部分の施工不良に起因するケースや、建物のプラン上、少し無理をしているケースもあります。構造部の施工不良があるならば、その補修や補強は早めに実施した方が良いですし、プラン上の無理があるならば、その対策を考えた方が良いことが多いです。
プラン上の無理とは、たとえば梁を支える柱や壁のスパンが長すぎるなどして、梁が撓んでしまっているケースです。
1階の床は傾いていないのに、2階の床が部分的に傾いているケースなどではこれが疑われることがあります。巾木と床との隙間、巾木上とクロスとの隙間、壁のひび割れなどの不具合がなければ、新築時(上棟時)から既に梁がたわんでいる可能性もありますが、この場合はその後、床がさらに傾斜していく可能性は低いといえます。
(4)地盤沈下
少しやっかいな原因としては、地盤沈下(不同沈下)です。
軟弱地盤で地盤補強が十分でなかった場合などに、建物が傾いてくることがあります。この場合は、抜本的な対策を考えた方が良いことも多く、慎重な対応が必要です。
地盤沈下は、実は数年経過すれば沈下そのものは落ち着いてくるため、沈下の程度がわずかで建物に大した影響が現れず、生活上の問題もない場合には、そのまま特に対策をとらないこともあります。ただ、沈下が進行していくようであれば、やはり問題が大きいと考えられるために対応を考えなければなりません。
地盤沈下による建物の傾きであれば、基礎や外壁などにひび割れ(クラック)が生じることも多いです(上の写真)。
複合的な要因にも注意
また、建物の傾きは上記(1)~(4)の複合的な要因で生じていることもありますので、簡単に原因を決めつけてしまわない方がよいです。床の傾きに気づいたときには、以下の症状の有無についても確認してみましょう。
- 他の部屋の床の傾き
- 室内の壁の傾き
- 室内の壁のひび割れ
- 基礎や外壁のひび割れ(クラック)
- 床下の基礎底盤のひび割れ(床下点検口から確認できる)
上記のような症状があるならば、早めに建築した施工会社やハウスメーカー、または第三者の住宅検査会社などに相談してみるとよいでしょう。
専門家に診てもらうときには、レーザータイプの水平器で床や壁の計測をしてもらって(上の写真ののように)、どの程度の傾きがあるかを確認し、その他に関連のある症状(ひび割れ等)が出ていないか点検してもらうとよいです。また、床下の状況も確認してもらったほうがよいです。
傾きがある場合の原因等について記載しましたが、関連する症状を確認した上で総合的に原因を予測しているものです。
そのため、関連する症状をよく調べる必要もあることと総合的な判断をするための経験・知識が必要であることをよく理解しておいてください。また、判断する1つの材料としてその傾斜がその後も進行しているかどうか(傾きが大きくなっていくかどうか)も1つのポイントですが、その確認のためにわかりやすい方法は経過観察することです。たとえば、半年後などに同じように計測して傾きの変化を見ることです。