中古住宅の購入と設計図書(図面)の問題点
長く住宅診断(ホームインスペクション)という業務に関わっているなかで、毎日のように感じることがあります。それは、中古住宅を売買するときに、建物の設計図書(多くの図面をまとめたもの)が無いことが非常に多く、なぜもっと早く不動産・建築業界全体でこの問題の改善に取り組んでこなかったのかと。
最近になってようやく住宅の履歴を残そうと言われるようになってきましたが、そんなことは当たり前に以前からやっておくべきことでした。図面や修繕・リフォームの履歴を残していくことは、住宅の維持・管理をしていくうえでは非常に基本的なことです。
中古住宅の購入時や購入後に設計図書が無くて困ること
中古住宅を購入する人が、不動産会社を介して売主に図面の提示を求めても、「どこにいったわからない」などと返答されることはあまりに多いです。売主が図面を保管していない場合、買主が確認できる建物プラン関連の資料は、不動産会社が作成した間取り図ぐらいしかありません。
間取り図で部屋などの配置はわかりますが、寸法や隠れて見えない箇所がどうなっているかといったことはわかりません。
なぜ中古住宅の売買時に設計図書が無いのか
売主が設計図書を保管していないことは本当に多いのですが、なぜ無いのでしょうか。必ずしも売主が紛失したとは限りません。
新築で購入したときに、分譲した会社(売主)から買主に設計図書が引き継がれていないことが多いのです。今よりもずっと以前に新築住宅を購入した人であれば、その当時の売主から平面図しか引き継いでいないという人もいます。
最近の新築住宅を購入した人でも、平面図のほかに立面図と敷地配置図ぐらいしか引き継いでいない人もいます。この状況では、将来の中古住宅の売買時にその時点での売主(住宅所有者)が図面をほとんど持っていないのもうなずけますね。
設計図書が無いのは、中古住宅の売主の責任ではなく、不動産会社や建築会社の責任であることは非常に多いのです。
建物プランを正確に把握できない
購入を希望する中古住宅の設計図書が無い場合、どういった問題がありうるのでしょうか。
まず、建物のプランを細かなところまで把握することができないという問題があります。部屋の配置や凡その部屋の広さは、見学時に確認することができますが、詳細な寸法は自分で計測するしかありません。全ての箇所を計測するのは非常に手間がかかることですから、家具を置くのに微妙な箇所だけ計測する人が多いですね。
リノベーション・リフォーム・メンテナンスで困る
図面が無く建物プランを把握できないと、その建物をリノベーションやリフォームしたり、メンテナンスしたりするときに困ることは多いです。
隠れて見えない部分については、予想に基づいてリフォームプランを検討しなければならず、解体したときに想定と違えば、追加工事費用が生じることもあるので、当初の予算設定で困ります。また、長持ちさせるための補修(メンテナンス)をするときに、仕様が不明瞭であるとすぐに適切な補修方法を確認できないこともあります。
住宅トラブルの原因予測が困難
住宅は、古くなっていく過程でいろいろな問題が表面化することがあります。たとえば、雨漏りです。雨漏りの原因箇所や見えない部分の被害範囲の予測も、設計図書がある方が対処しやすいことが多いです。
図面がなく予想が困難なケースでは、解体工事で確認する範囲が広がりすぎて、コストや工事の無駄を生むこともあります。
設計図書が無いという問題を改善するために
設計図書が無いことが一般的と認識されている今の中古住宅市場ですが、この状況を大きく改善していくために必要なことは何でしょうか。この対策は非常に基本的なことに終始します。
不動産会社、建築会社、設計事務所が消費者に引き継ぐ
最も基本的であり、かつ当然にやらなければならないのは、新築時やリフォーム時に不動産会社、建築会社、設計事務所から消費者(買主や施主)に対して、設計図書を全てきちんと引き継ぐということです。今でも、これができていない会社は非常に多く、何度も何度も請求してようやく受領できるということもあります。
ひどい会社になると、「当社は平面図と立面図と配置図しか買主にあげないことになっている」などと無茶苦茶なことを言うことがあります。そもそも、「あげない」という姿勢がおかしいのですが、自分たちが異常な対応をしているという認識すらないのでしょう。
会社側の都合としては、「詳細な図面まで渡してしまって、図面と現況の相違などを調べて指摘されたら困るから」ということもあるようです。なかなか身勝手な理由ですが、こういったことは散見されています。
住宅を供給するものの責務として、設計図書を消費者へきちんと引き継ぐようにしてほしいものです。
住宅所有者が設計図書の重要性を認識する
一方で消費者も意識を改める必要がありそうです。購入時に引き継いだ図面を紛失してしまったという人もまた少なくないからです。
購入した時の参考資料程度の認識で、その後は見ることもないため、紛失してしまうのも理解はできます。しかし、前述したようにリフォームなどで利用することはありますし、次の所有者(買主)へ引き継いでいくためにも保管しておかなければなりません。
不動産・建築業界の人たちが、もっと消費者に設計図書の重要性を説明して、引き継ぐときにきちんと保管すべきことを伝える必要があるでしょう。
設計図書(図面)のある中古住宅をもっと評価すべき
中古住宅を売買するときに、仲介する不動産会社は、設計図書の有無をそれほど重視していないことが多いです。図面があるかどうか軽く売主に聞くものの、売主が「たぶん無いと思いますね」と言えば、もっと探すように働きかけてもいいはずですが、「そうですか、仕方ないですね」とあっさり引き下がることが多いです。
しかし、自宅の売却が決まり退去するときに図面が出てきたという事例もありますから、もう少し探すようにはたらきかけてもよいでしょう。
仲介という形で中古住宅の売却や購入を斡旋する不動産会社が、図面に対して意識が低いと、売主や買主の意識も高まらないでしょう。設計図書や修繕の履歴がきちんと残っている中古住宅の評価を高めるような査定が一般的になれば、住宅所有者にもわかりやすいメリットが生じるため、状況が改善されるでしょう。
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