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一級建築士 蔦村賢一郎の住宅コラム

住宅の建築工事請負契約書の注意点、チェックポイント


そもそも性善説を美徳としてきた日本民族にとって長い間、契約書は契約という儀式の一ツールでしかなかったように思える。近年、経済のグローバル化が進む中で、その精神は次第に綻びつつあるのかもしれない。もはや契約書を甘く見ていると、とんでもない状況に陥れられる時代に突入しているのである。

住宅の建築工事請負契約も例外ではない。以前はそれぞれの施工業者が独自の契約書を用いているのが一般的だった。これらの中には、とても契約書とは信じがたい内容のものも少なくなかったと思われる。

当然、建築トラブルは年々増加の一途をたどり行政が対策に動き始めるわけである。住宅性能保証制度に始まり、今日ようやく周知されるようになった品確法はそこから出てきた産物である。

さて、バラバラだった工事請負契約書はどうなったのかというと行政の動きと平行して民間団体が連合して標準の工事請負契約約款なるものを策定している。民間団体とは(社)日本建築学会、(社)日本建築家協会、(社)建設業協会、(社)日本建築士会連合会等である。約款の骨子は次のとおりである。

1、 総則
信義の遵守 設計図・仕様書にもとづく履行
2、 工事用地
3、 関連工事の調整
4、 請負代金内訳書・工程表
5、 一括下請負・一括委任の禁止
6、 権利・義務の譲渡などの禁止
7、 特許権などの使用
8、 保証人
9、 監理者 
   法令でも設置を義務づけているが、実態のない名義貸しの現場が横行している。
   契約では丙として監理者をおく。
10、 現場代理人・監理技術者など
11、 履行報告
12、 工事関係者についての異議
13、 工事材料・工事用機器など
14、 支給材料・貸与品
15、 丙の立会い、工事記録の整備
16、 設計の疑義・条件の変更
17、 図面・仕様書に適合しない施工
18、 損害の防止
19、 第三者損害
20、 施工一般の損害
21、 不可抗力による損害
22、 損害保険
23、 完成・検査
24、 部分使用
25、 部分引渡
26、 請求・支払・引渡
27、 瑕疵の担保
28、 工事の変更、工期の変更
29、 請負代金の変更
30、 履行遅滞・違約金
31、 甲の中止権・解除権
32、 乙の中止権・解除権
33、 解除に伴う措置
34、 紛争の解決
35、 補足

以上、建築トラブルを回避するためには。この程度の取り決めが最低限必要だというわけである。

万一、トラブルが発生したとき、いきなり訴訟を起こすには費用も時間もかかるため、二の足を踏む建築主も少なくないと思うが、そんな場合のために各地に紛争処理機関(ADR)なるものが設けられている。安い費用で紛争の仲裁・調停・あっせんをしてもらえるので、小額のトラブルならおすすめである。

さて、この紛争処理機関(ADR)にもいろいろな事件が持ち込まれるが、それらに共通して言えるのが、契約書の不備である。特に総則の項目に記載されている設計図・仕様書との関連性が曖昧なものが多い事である。いったいどの設計図・仕様書にもとづいて発注したのかわからないために、もめているのは理解できても、なかなか争点を絞れ切れないのが現実である。

地縁・血縁が薄れていく日本社会で、一生に一度あるかないかの大きな買い物をする。そんなとき我が身を守るのは契約書しかないと認識することが重要である。いつでも手助けできるように我々専門家は控えている。

1級建築士 蔦村賢一郎 蔦村賢一郎
一級建築士

住宅の設計・監理、ホームインスペクション(住宅検査・住宅診断)を行っており、大阪・奈良を中心に関西で活躍している。

住宅検査・住宅診断のアネスト
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