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荒井康矩の住宅コラム

新築マンションの内覧会立会い・同行に適した専門家の誤解と注意点


 マンションの内覧会の専門家選びに関して、誤解している方が多いことと、誤解を生む表現のサイトもいくつかることから、私なりの考えを書いておきます。

 新築分譲マンションを購入して、その建物が完成し引渡しを受ける日が近くなりますと、ディベロッパーや販売会社から内覧会や引渡しのスケジュールの案内が届くようになります。内覧会とは、買主が引渡しを受ける前に施工精度などをチェックする機会で、その場に専門家を同行する方も少なくありません。

マンション内覧会の専門家

 買主だけでは建築や施工の知識がなく経験もないため(何度もマンションを買う方は少ない)、専門家に同行を依頼して一緒に検査(チェック)してもらおうということです。どんな専門家に依頼すればよいかという点で、悩まれる方もまた少なくないようです。新築マンションの内覧会が初めての経験なら、専門家選びも初めてですから無理もありません。

 新築マンションの内覧会立会い・同行に適した専門家を選ぶうえで、マンション内覧会のことをよく理解しておかなければなりません。

 一戸建て住宅ならば、主要な構造部分(柱・梁・土台など)の一部や断熱材など広範囲に確認することができます。もちろん、それぞれの建物のプラン・点検口の有無や位置などの諸条件によっても調査できる範囲は異なりますが。

 これに対してマンションの内覧会では、一戸建て住宅と異なり確認できる範囲があまり広くありません。住戸内の床や壁の表面的な仕上げ部分(クロスやフローリングなど)、建具や設備の動作チェック、ユニットバスにある点検口の内部などに限られており、主要な構造部の確認はできません。正確に言えば、多大なコストと日数をかけることでできなくもないですが、それは将来、管理組合で劣化診断をするときを待つことになります。

 このように、調査範囲が極端に制限されるマンションの内覧会においては、マンションの構造に関する高い専門性は求められません。その専門性を発揮できるような調査は内覧会の機会では現実的に実施できないのです。

 一方で、マンションの内覧会に専門家を同行する方のなかには、「マンションに詳しい人」「マンションの構造に詳しい人」「マンション内覧会のスペシャリスト」といった方を求めれば良いと誤解されている方が多いようです。確かに住宅診断をするときには、専門性は大きな武器になりますから、そう考えるのも無理はありません。

 しかし、「マンションに詳しい」「マンション内覧会のスペシャリスト」などと謳っている業者等は、そのほとんどが「マンションの室内の仕上げと設備ぐらいならわかる」という程度の方です。なかには、マンションの設計図書を見て構造をまともに理解することもできない方でも、「マンションの内覧会ぐらいなら何とかなる」と考えて、マンションに特化して内覧会立会い・同行サービスを行っているケースもあります。何人も担当者がいる業者で、マンション内覧会のみを担当している方も同じであることが多いです。

 ひどいケースになりますと、施工現場に携わったことのない方が、内覧会立会い・同行の経験のみを積んで対応していることもありますが、これは素人とほとんど同じです。そういう方であっても、経験や知識のない一般の方から見れば詳しい人に見えることは多々ありますが、実際には何ら詳しくないことがあります。

 新築マンションの内覧会に専門家の同行を希望する方は、「マンションに詳しい」というキーワードではなく、「一級建築士」「施工管理の経験がある」「マンションの設計や工事監理に携わったことがある」といった点を重視した方がよいでしょう。3つ目の「マンションの設計や工事監理に携わったことがある」の経験数はそれほど多く必要ありません。数度の経験があればよいでしょう。ちなみに、マンションの設計や工事監理は二級建築士ではできません(補助などは別)ので、一級建築士の方がより良いです。

 「マンションに特化」「マンションの内覧会のみを担当している」という方には、「その程度なら何とかできるから」という方が多いことを理解しておきましょう。誤解を恐れずにはっきり言えば、木造などの一戸建て住宅の経験を中心としてきた方でも、マンションに関する多少の経験があれば、内覧会での検査経験・研修を積めば非常に頼りになる存在になります。少なくとも、「マンションの内覧会ぐらいなら何とかなる」というレベルで、特化しているという方よりは非常に頼りになることは間違いありません。

 ちなみに、何年も何十年もマンションを中心に設計・監理(若いときには現場管理も)をしてきたという方がマンションに特化しているのであれば、本当に詳しい方でしょう。そういった方に依頼するのであれば、技術的・知識的な心配はありません。このような方を理想的だと考えるかもしれませんが、前述したようにその能力を発揮するには内覧会では無理があります。ただし、マンション購入前にモデルルームなどで設計図書を見ながら、そのマンションについて解説や購入アドバイスを受けるには最適な方です。

 一戸建て住宅の場合は、一戸建ての設計・監理・現場管理などの経験が必須ですが、マンションの場合はマンションの経験値がそれほど活きないということです。

荒井 荒井 康矩
住宅コンサルティング会社の経営者

住宅の購入相談、ホームインスペクション(住宅検査・住宅診断)を行う(株)アネストブレーントラストを経営している。

住宅検査・住宅診断のアネスト
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